指名委員会は多大な影響力を持つ。いわゆる「北欧モデル」は、全体のバランスがとれ、株主との距離も近い取締役会を考える上で、ひとつの手がかりを与えてくれる。
指名委員会は、コーポレートガバナンス構造の中では、目に見えない存在かもしれない。しかし、取締役候補を提案し、その任命を強く後押しすることで、最終的には企業のガバナンスやカルチャーに影響を及ぼし、それが企業のパフォーマンスを左右することも少なくない。
一見すると指名委員会の目的は明快で、複雑化する事業環境で企業が勝ち残るために、専門性と多様なバックグラウンドや経験を備えた役員候補者を選出することである。同時に、大株主である創業家や機関投資家、小口株主、CEO、さらには各ステークホルダーや規制当局に至るまで、さまざまな立場から寄せられる明示的・暗示的な期待の間で、微妙な舵取りを求められる存在でもある。
指名委員会のあり方に、唯一の正解があるわけではない。国ごとのガバナンス・コード、株主構成、企業文化によって、そのあり方は大きく左右される。既存の取締役会やCEOを重視するモデルもあれば、株主重視のモデルもあり、さまざまな形が存在する。歴史的には、指名委員会を取締役会の延長線上に位置づける考え方もあった。 この場合、CEOや取締役会議長、社外取締役が自らの意向に沿った候補者を選び、これを株主が形式的に追認するのが一般的であった。もっとも、特にアクティビスト投資家が関与する場合は、この前提は必ずしも当てはまらない。このモデルには、調和や継続性、戦略的な焦点を保ちやすいという利点はある一方で、独立性の確保は外部からの社外取締役の選任にゆだねられる面がある。なお、欧州の多くの国では、指名委員会に株主と現職の取締役がともに参加する形がとられている。
北欧モデルと大株主の力
対照的なのが、いわゆる「北欧モデル」である。このアプローチは、特にスウェーデンでは強制力のあるコードにより規制されており、株主主導による取締役選任を重視している。その狙いは、指名委員会が既存の社外取締役会や経営陣と過度に同調することを防ぐと同時に、株主が長期的な企業戦略に関与していくことを促す点にある。例えば、同コードでは、取締役会の過半数のメンバーは取締役会および会社と利害関係のない独立した立場であること、さらに少なくとも1名は筆頭株主からも独立していることが求められている。
北欧式の株主主導型指名委員会は、取締役会の独立性を担保しているが、この制度にも弱点がないわけではない。まず、すべての株主が同じ影響力を持っているわけではない点だ。 国内の大手機関投資家は、候補者指名において過大な影響力を持つ。その背景には、大手企業を中心に投資するインデックスファンドの存在が高まっていること、そして何より、指名委員会そのものが大株主によって選ばれるという仕組みにあることが挙げられる。これに対し、北欧企業の株主構成における比率が高まっている海外ファンドや一部の大口海外個人投資家は、これまでスウェーデンをはじめとする各国の国内ガバナンスの課題にほとんど関与してこなかった。
ストックホルム経済大学の研究によれば、スウェーデンの外部型指名プロセスは、「英国の内部型システムが抱える株主の関与不足を解消する」。その反面、「情報量が多い大口株主と、少ない小口株主との間に潜在的な利害の不一致が生じる」というリスクもあると指摘されている。
ガバナンス・コードの施行により、この懸念はある程度は軽減されている。仮にコードがなければ、大手ファンドマネージャーが小口株主の利益を軽視するような事態も起こりえただろう。例えば、構成バランスや貢献度を考慮して候補者を探すのではなく、自社関係者を優先的に取締役会に推薦するといった行為である。
もっとも、こうした株主間の不平等は、実態以上に強調されるべきではない。上場企業において、小口株主が取締役候補の提案権を行使することは稀である。一般的に彼らは、筆頭株主が企業にとって最善の利益、すなわち株主価値の向上を図ると信頼している。
さらに、指名委員会は原則として厳格な指名プロセスを経て候補者を提案するにとどまり、最終的な判断は株主総会に委ねられている。この仕組みにより小口株主にも懸念を表明する機会が与えられるほか、取締役候補者を指名する機会が制度上は確保されていることを意味する。もっとも、株主総会での議決権は大株主が掌握しているため、指名委員会も彼らの指名者で構成されるのが通例である。結果として、正式に選任される候補者は、外部や小口株主から推薦された者ではなく、ほぼ例外なく指名委員会が提案した人物となるのが通例である。
北欧モデルに懸念があるとすれば、それは指名委員会のメンバーの多くが、十分な時間を割けない、あるいは業界への理解が必ずしも深くない点です。
財務重視と時間的制約
北欧モデルのもうひとつの懸念は、指名委員会のポストが、取締役会長を除き、投資家やファンドマネージャーで占められがちな点である。彼らは、当該業界において比較的限られた知識しか持たない場合も少なくない。財務的洞察力に疑いの余地はないものの、ガバナンス問題を含む非財務的な実務領域に関しては専門性が不足しているケースが見られる。とりわけ、主要株主である大手機関投資家から見て、投資先としての優先度が低い小規模な企業ほど、この傾向がより顕著である。さらに、こうした投資家たちは本業に加えて最大で10社程度の指名委員を兼任している場合もあり、個々の企業に十分な時間を割くことが難しいのが実情だ。
この課題への対応として、一部の機関投資家は、従来型の経営経験を有する外部の専門家を指名委員会に迎え入れてきた。25社以上の指名委員会のメンバーを務め取締役会議長も務めた経験を持つある指名委員は、こう述べている。「少なくとも大企業においては、指名委員会が取締役会議長、すべての取締役、そしてCEOへのヒアリングを行い、現行の取締役会を評価したうえで、新たにどのような人材を補うべきかを見極めることが一般的になってきました。必要な人材の発掘や招聘にあたっては、外部サーチ会社を活用するケースも増えています」
また、取締役会議長が当初から指名委員会のメンバーではない場合、企業と業界への知見を活用するため、ほぼ例外なく指名委員として迎え入れられる。議長が指名プロセスを主導するケースも少なくないため、候補者が議長の支持を得ずに指名されることは極めて稀だ。もっとも、指名プロセスの提案、決定および監督は依然として株主の権限に属しており、株主は引き続き相応の影響力を保持している。
取締役会の指名制度に絶対的な正解はない。企業が置かれている状況や条件に左右されるからである。ただし、事業環境が絶えず変化している中では、取締役の指名プロセスに柔軟性を持たせることが、企業にとって有益となる場合もある。「内部型」と「外部型」のふたつのアプローチの要素を組み合わせるか、あるいはそれぞれの弱点を補完するのか。いずれにせよ、すべての取締役会が目指すべき最終的なゴールはひとつである。すなわち、専門性、監督機能、独立性、代表性の最適なバランスを実現することだ。
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