体系化された後継者計画は、上場企業だけのものではない。同族経営企業も、そのベストプラクティスを取り入れることで成長できる。
同族経営企業におけるCEOの後継者選びは、注目と関心を集めやすいテーマである。その判断ひとつで企業の命運を左右するからだ。非上場企業や同族経営企業は、上場企業の体系化された実務と経験から多くを学ぶことができる。ウォルマートとメットライフの取締役であるCarla Harrisがウォール・ストリート・ジャーナル紙に語ったように、「目指すべきは円滑な継承」であり、そのためには「CEO交代時に重大な問題が起こらないようにすること」が重要だ。
この考え方は、世界各地で共有されている。インドで数多くの取締役および議長を務めてきたビジネスアドバイザーであり著述家でもあるShailesh Haribhaktiは、「基本原則は同じだが、実務の進め方は異なる」と指摘したうえで、「いずれの状況でも、厳格なプロセス、早期の計画、そして徹底した透明性が欠かせない」と述べている。もっとも、同族経営企業における幹部登用では、ステークホルダーの関与が強い点に特徴がある。
一方、上場企業では、取締役会がCEO後継者選任を主導するのが一般的だ。体系的なプロセスには、有望人材の特定、強力な人材パイプラインの構築、外部候補者とのベンチマーク、必要に応じた暫定CEOの任命(多くの場合はCFO)、引継ぎ期間の合意、そして市場への情報開示などが含まれるのが通例である。
現職のCEOが、潜在的な後継者を見極め、その育成に関与するケースも少なくない。周到な計画と透明性の高いコミュニケーションは、組織全体の士気を保ち、内部候補者に公正な機会を与えるとともに、市場における不要な混乱を避けるうえで重要な役割を果たす。また、戦略的かつ秩序あるアプローチを取ることで、誤った判断を防ぐための強固なチェック機能が働く。
「CEO後継計画に唯一の正解モデルは存在しない。オーナーシップの構造や企業を取り巻く状況によって、そのあり方は異なる」と、多くの取締役会で社外取締役を務めてきたHiroo Mirchandaniは言う。この考え方は、数世代にわたる伝統的な同族経営企業にも当てはまる。最終的な意思決定は、創業者が単独で下す場合もあれば、合意された親族のグループ、あるいは取締役、親族、独立社外取締役が混在する体制によって行われる場合もある。
上場企業ではCEOの業績が振るわない場合、取締役会が比較的早い段階で問題を察知し、対応に動くのが一般的である。これに対し、同族経営企業では関係者が行動を起こすことに消極的になりがちだ。イタリアの上場同族経営企業を対象とした調査によれば、たとえ業績が悪化しても、取締役会が業績不振のCEOの解任に踏み切る意欲や能力は、独立取締役が過半数を占める場合よりも低いことが示されている。
同族経営企業の将来は、オーナー家の価値観を、専門性の高いガバナンス体制と先見性のあるリーダーシップといかに調和させられるかにかかっている。
新たなCEOを選ぶという判断が最終的に合意されると、上場企業の取締役会は通常、一定のスキルと資質を備えた候補者を求める。具体的には、事業戦略に対する深い理解、財務面での確かな実績、的確な意思決定能力、効果的なコミュニケーション能力、そして何よりも高い信頼性が重視される。これらの要素のいずれかが欠けていると市場が受け止めた場合、即座に株価や投資家の評価に影響するだろう。
もちろん、こうした資質は同族経営企業にとっても重要だ。だが実際の選考においては、信頼や忠誠心、さらには家名をいかに守り、次世代につないでいくかという理解が、遥かに大きな比重を占めることも少なくない。
同族経営企業で外部登用のリーダーが成功するための3つの鍵:
- 明確なガバナンス構造:諮問委員会、ファミリー評議会、執行委員会などの正式なガバナンス体制を整え、意思決定の権限と長期目標を明確化する。これにより、組織全体の方向性を一致させ、説明責任を徹底する。
- 企業文化への深い理解:個別に設計されたオンボーディング、企業の歴史や社会貢献活動に触れる機会、メンタリングを通じて、オーナー家の価値観や伝統への理解を促す。これにより、一族への愛着を高め、組織との一体感を高める。
- ガードレール付きの裁量:戦略の範囲内で、リーダーが革新を進め、影響力を発揮する余地を与える。監督と独立性のバランスを取り、ステークホルダーを疎外することなく変革を推進する。
同族経営が世代を超えて成長を持続させることは、決して容易ではない。例えば南アフリカでは、同族経営企業が全企業の50~70%を占めるが、第二世代まで存続するのはわずか33%、第三世代までとなると16%にとどまる。後継者計画は重要な要素ではあるものの、その成否を左右する要因は、より複雑で多面的である。
3つの信頼できる候補者サークル
同族経営企業がCEOの後継者を探す際、候補者はしばしば3つの信頼できる候補者サークルから選ばれる。最も内側の円には、後継を担う意思と能力を備えた少なくとも一人の親族が位置することが多い。こうした候補は、MBAなどのビジネス関連資格を取得し、長期的なメンターのもと事業部門を横断的に経験するなど、既に育成プロセスを経ているケースが多い。また、指名された後継者が、退任するリーダーに長年随行し、職務を間近で学んできている事例もある。新CEO就任後も創業者が会長職や名誉職にとどまり、長年培ってきた重要な取引関係を維持しながら、円滑な移行を支えることがある。
ある企業の継承事例を振り返り、Shaileshはこう語る。「最優先したのは、専門的な経営システムを損なうことなく、親族後継者を組織に統合することでした。早い段階から組織に迎え入れ、幅広い人間関係を持たせ、承継プロセスの継続性を維持することで、秩序ある信頼性の高い事業継承を実現したのです」
しかし、同族経営では、家族間の関係性が地雷原になることが多い。とりわけ、出生順序、性別による偏り、兄弟姉妹間の競争、事業の存在意義に関する見解の相違(例:収入源としてか、家名の維持か)は深刻な対立を生みやすい。特に同族経営企業の事業承継では、感情的な不均衡が生じやすい。つまり、「誤った」決定をすれば、その代償はビジネス上の問題だけに留まらず、プライベートで個人や親族関係にまで影響を及ぼし、長期にわたる禍根を残しかねない。
経営幹部の後継者計画は、想定される交代時期の何年も前から着手するのが一般的です。
一方で、創業者にとって憂慮すべき事態として、後継者候補となる同族内の親族が誰も現れないケースがある。その場合、第二の候補者サークルである、親族以外の信頼できる社内人材に目を向けねばならない。多くの取締役会で社外取締役を務めてきたHiroo Mirchandaniは、次のように指摘する。「次世代の後継者候補が限られている、あるいはその意思が示されない場合、議論は直ちにプロフェッショナルな承継へと移行します。ここでは創業者と指名報酬委員会が、創業期から事業を支えてきた幹部を特定し、育成します。この計画を正式なものとして整えるうえで、指名報酬委員会は極めて重要な役割を担います。」
先見性と計画性を備え、確立したプロセスがあれば、こうした後継者選定は比較的順調に大きな波紋を生むことなく進めることができる。例えば2023年には、米国最大級の同族経営企業である農業関連企業カーギル(Cargill)が、30年以上にわたり同社に在籍してきた元COOのBrian SikesをCEOに指名し、退任するCEOは取締役会長に就任した。オーナー家の株主は引き続き取締役会に積極的に関与している。
そして、第三の、最も外側のサークルに位置する候補者は、社外からの人材である。その選定は、オーナー家との血縁関係ではなく、純粋にビジネス上の力量にもとづいて行われる。この層からの候補者選定は、泥沼の身内争いを回避できる方法のひとつでもある。「外部サーチは、プロセスの透明性を担保する上で不可欠だ」と、Shaileshも指摘している。
最終的に成否を分けるのは、長期的な視点に立った後継者計画である。「CEOの承継は、もはや一度きりの出来事ではない。プロセスそのものだ」と、Shaileshは捉えている。「明確な長期ビジョンを描き、早い段階から潜在的な後継者を育成プロセスに組み込み、政治的な思惑や水面下の駆け引きが入り込む余地がないよう、透明性の高い文化を築くよう努めました」
さらにHirooは次の点にも注意を促す。「外部からリーダーを迎え入れる際には、その役職を期待していた内部人材の一部が離職する可能性を想定しておいてください。慰留したい人材には、より大きな役割を与えて意欲を繋ぎ止めるか、あるいは退任を想定したうえで、あらかじめその後継候補を確保しておくべきです」。さらに彼女は、こう助言する。「選考プロセスは常に透明であるべきです。内部候補者に対しては、外部候補者と同じ基準で公平に評価されたことを伝えます。たとえ最終的に外部候補者が選ばれたとしても、透明性は組織の人材定着率とエンゲージメントを高めてくれるからです。」
同族経営企業の承継において留意すべきリスク:
- 取締役会の自己規律:CEO承継を監督するには、取締役会の強固なガバナンスが必須だ。上場企業のような制度化された監視機能がない同族経営企業では、自ら規律を保ち、堅実な後継計画を策定・運用する姿勢がより強く求められる。
- 信頼できるアドバイザーの不在:経験豊富な取締役会長や人事責任者がいない場合、未知の承継リスクへの対応に苦慮することになる。そのようなケースでは、外部の専門的な助言を積極的に活用することが有効である。
- 情報共有への抵抗感:オーナー家が財務情報を外部の人材と共有することに抵抗を覚えるのは理解できる。だが、その開示を拒めば、次期CEO候補の真の実力を十分に評価できなくなる恐れがある。
- 高度な対人能力の必要性:同族経営企業特有の複雑な人間関係や、不明確な期待値の中を進むには、CEO候補には高度な外交手腕が求められる。この特殊な要件が、適任者の人材プールを狭めてしまうことも少なくない。
- 世代交代による不一致:退任する先代当主とは良好な関係を築いていたCEOであっても、次の世代の当主と最適な関係を築けるとは限らない。
- 親族全員の私情と思惑:一族の人間が暫定CEOを務めると、身内特有の感情や力関係が絡み、本来はシンプルなはずの承継プロセスが思わぬかたちで複雑化することがある。
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