ja | JP
OBSERVE Magazine

オジャーズのグローバルマガジンでは、最新のインサイト、オピニオン、特集記事をお届けします。

リーダーシップに関する洞察

スタジアム運営業界のトレンド ― 2025年の展望

5 min read

スポーツスタジアム運営業界は、急速な進化を遂げている。施設運営会社のマネジメント層100名以上を対象に実施したオジャーズの最近の調査では、「民間投資」「システム連携」「多目的利用」「サステナブルな開発」が今後の業界を定義づける主要トレンドとして明らかになった。

こうした傾向は、専門性を備えたリーダーを求める組織にとって、リーダーシップ人材の採用戦略に影響を及ぼしている。

トレンドを探る

1. スタジアム運営の投資戦略と複合化

エンターテインメントスタジアムへの投資は、かつてないほどの水準に達している。デロイトによると、2025年までに300以上の世界のエンターテインメントスタジアムが改装または新設されると予測しており、これらのプロジェクトの約半数が北米と欧州に集中している。このようなインフラ開発の急増は、プライベートエクイティ(PE)や行政機関からの関心の高まりを反映している。

PEファームは、スポーツやエンターテインメント分野の不動産投資への関心を強めており、スタジアムの通年稼働による収益の多角化に可能性を見出している。公共セクターでは、MLBのタンパベイ・レイズがフロリダ州セントピーターズバーグ市と提携して新たなボールパーク(野球場に商業・娯楽施設を併設した地域交流を促す複合エリア)を建設している。また、NBAスパーズの新アリーナが建設される予定のテキサス州サンアントニオ市街地のエンターテインメント地区構想も注目事例である。

こうした投資は、多くの場合、地域開発の触媒として機能し、コミュニティとの関係強化や経済活性化を後押しする。例えば、トロント市のロジャーズ・センター(MLBトロント・ブルージェイズの本拠地)の改修では、ボールパーク内に地域に根ざした「街角のような空間」を作り出すことを目指し、地元の食文化やエンターテインメントを取り入れたユニークなファン体験を提供している。

このような取り組みは、ファンの体験を豊かにするだけでなく、地域社会の結びつきを強め、地域への誇りを育む役割も果たしている。

リーダーシップ人材採用への影響

プライベートエクイティや行政機関による投資の拡大を背景に、官民パートナーシップに精通した財務・商業分野のリーダー人材が重視されている。スポーツ・エンターテインメント業界は、大規模プロジェクトの推進、法規制への的確な対応、多様かつ複雑なステークホルダーとの関係構築ができる経営幹部を求めている。インフラ開発と投資戦略に関する専門性を備えたCFO(最高財務責任者)、COO(最高執行責任者)、プロジェクトリーダーの需要は今後さらに高まるだろう。

2. 多目的スタジアムとファン・エンゲージメントの革新

多目的スタジアムへの移行は、消費者の行動様式の変化と、観客をリアルなイベントに呼び込むという課題への対応策である。

例えば、スポーツファンダムにおいて、Z世代はよりカジュアルな志向が強く、現地での試合観戦よりもオンラインでのストリーミング視聴を好む傾向がある。この状況に対処すべく、スタジアムは提供するコンテンツを多様化している。トッテナム・ホットスパー(プレミアリーグ)のホームスタジアムでは、サッカーの試合のほかに、NFLの試合や音楽コンサートなど用途に応じて会場を柔軟に切り替えて活用している。

AR(拡張現実)やVR(仮想現実)のような技術の革新で、ファン体験は一変している。

AT&Tスタジアム(NFLダラス・カウボーイズの本拠地)では、ARを使用して、ファンが選手のホログラムと対話したり、スタッツデータを確認したり、ハーフタイム中にバーチャル選手が登場するゲームに参加したりできる。
世界のスマートスタジアム(※)市場は、2024年に80億ドル以上と評価され、2033年には380億ドルに達すると予測されており、成長が見込まれている。ジョージア州アトランタにあるメルセデス・ベンツ・スタジアムでのWi-Fi 6E導入など、接続性の強化は、ライブイベントの臨場感を損なうことなくシームレスで豊かなファン体験を実現している。
(※スマートスタジアム:5GやIoT、AI、AR・VRなど最新ICT技術を活用し、観客体験や運用効率を向上させたスタジアム)

現代のスタジアムは、運営面での柔軟性を上げるためにテクノロジーを活用している。Amazonの「Just Walk Out」や、ロジャーズ・センターの「Tap N Go」「Walk Thru Bru」などの自動化サービスシステムの革新により、飲食物の購入と受け取りを効率化し、待ち時間を短縮して利便性を上げている。また、ダイナミックプライシングとデジタルメニューボードは、多様な客層の好みに応えながら収益を最適化している。

テクノロジーはスタジアム運営の在り方を再定義し続けており、観客の安全性向上からエネルギー効率の最大化まで、多方面にわたる価値を高めている。

イベント管理ソフトウェア、ビル管理システム、デジタルインフラは、現代のスタジアム運営者にとって不可欠なツールである。

インテュイット・ドーム(NBAロサンゼルス・クリッパーズの本拠地)は、AI搭載のセルフチェックアウト機能とモバイル対応サービスを組み合わせた仕組みを導入・実証している。一方、NFLデンバー・ブロンコスのホームスタジアムでは、テクノロジーシステムを全面的に刷新し、完全なモバイル対応を実現した。

テクノロジーは、利便性だけでなく、安全性とセキュリティにおいても重要な役割を果たしている。高度な人流計測システム、キャッシュレス決済、リアルタイム通信プラットフォームにより、大規模なイベントでもスムーズな運営が可能になった。これらのイノベーションは、ファン体験の向上に加えて、スタジアム管理者の業務効率化にも貢献している。

デジタルタッチポイントは、パーソナライズされたマーケティングやコミュニケーション手段として、導入が増加している。例えば、スタジアム内で、観客のデバイスに向けてターゲットを絞った安全情報やキャンペーン告知を直接配信して、より魅力的でインタラクティブな体験を創出できる。それでも、多くの組織にとってデジタル化への道のりはまだまだ長いと言える。

リーダーシップ人材採用への影響

多目的スタジアムの運営には、イノベーションを牽引し、多様な運営要件に柔軟に対応できるリーダーの存在が不可欠である。ファン・エンゲージメント戦略、テクノロジー導入、複数のイベントや会場の管理経験を持つゼネラルマネージャーとスタジアム運営ディレクターは、ますます重要になっている。ただし、商業的な視点を持ちつつ、大規模イベントやスタジアムの安全管理ガイドラインについて熟知しているリーダーは希少である。そのため、採用が困難なポジションの1つとみなされている。

テクノロジーに精通したリーダーの重要性も、ますます増している。スタジアム運営やエンターテインメント企業では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を主導するCTO(最高技術責任者)やCIO(最高情報責任者)の採用が加速している。

エンターテインメント業界でも、テクノロジーに関わるポジションは目まぐるしいスピードで進化しており、多くの場合は困難だがやりがいもあり、幅広く多岐にわたる業務領域をカバーする役割を担っている。

テクノロジーに携わる経営幹部は、幅広い分野で優れた能力を発揮することがこれまで以上に期待される。当社のクライアント企業は、サイバーセキュリティ、AI、データ領域における高度な専門知識に加え、取締役会レベルでの戦略的なコミュニケーション能力、ステークホルダーへの啓発活動、インフラおよびアプリケーション全体にわたる変革を主導する力を備えたリーダーを求めている。しかも、厳しい予算と少人数のチーム体制の中で、これらすべてをこなす必要がある。

このような人材は非常に限られているため、当社では、隣接する業界から新たな視点と業界横断的に活かせるスキルを持つ優秀な人材を見出すことで、多くの成功を収めてきた。

3. エンターテインメントスタジアムにおけるサステナビリティ

サステナビリティは、社会や業界の幅広いトレンドを反映して、スタジアム運営における重要な優先事項として捉えられている。企業は、環境負荷を低減しながら、社会意識の高い消費者にアピールするために、環境に配慮した取り組みを採用している。

米国のアレジアント・スタジアムでは、スーパーボウルの電力供給を再生可能エネルギーのみで賄う取り組みなどで、新たな基準を打ち立てている。同様に、英国のメリルボーン・クリケット・クラブは「ネットゼロへの道のり(Journey to Net Zero)」戦略を推進し、太陽光と風力エネルギーを運営に取り入れている。ロンドンのウェンブリー・スタジアムの革新的なピッチリサイクル・プログラムは、業界のサステナビリティへの姿勢を明確に示している。

また、サウジアラビアのNEOMスタジアムのプロジェクトでは、再生可能エネルギー源のみを使用する持続可能な建設手法に焦点が当てられている。こうした先進的な取り組みは、環境への影響を軽減するだけでなく、将来的にエンターテインメント業界が企業の社会的責任(CSR)分野におけるリーダーシップを確立するうえでも大きな意義を持つ。

スタジアム業界では、ケータリングと廃棄物管理についても見直しが進められている。地元の食品生産者との提携、堆肥化可能な包装材、高度なリサイクルシステムなどは、よりサステナブルな食品・飲料の提供に貢献している。これらの施策は、環境意識の高い消費者の共感を呼び、運用コストの削減にもつながっている。

リーダー採用への影響

大手のエンターテインメント企業では、CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)をはじめ、環境問題への取り組みに精通したリーダーのニーズが高まっている。小規模な組織では、サステナビリティを包括的な運用戦略へ統合する責任は、スタジアムの運営者やCOOに委ねられるケースが多く、こうした能力はリーダーの採用において重要な評価軸となっている。

急速な変革の最前線に立ち続けること

エンターテインメントスタジアム業界は、投資、テクノロジー、多目的化への適応、そしてサステナビリティの推進によって変革を遂げている。これらのトレンドは、業界を再構築し、リーダーに必要なスキルを再定義している。

トレンドを意識した採用戦略を立てることで、スポーツおよびエンターテインメント企業は競争力と革新性を維持できる。

エンターテインメントスタジアム業界の将来は、成長とエンゲージメントを促進しながら、これらの複雑さを乗り越えることができる先見性のあるリーダーシップの存在にかかっている。

世界有数のエグゼクティブサーチ会社であるオジャーズ は、スタジアム運営のトップリーダーと連携し、業界全体における革新と高水準のサービスの実現に貢献しています。


__________________________________________________

当社についてさらに詳しく知りたい方、 本件に関するご相談をされたい方は、こちらの専用フォームからお問い合わせください。専任コンサルタントよりご連絡いたします。

関連分野

サービス

Executive Search

業種・セクター

機能

CEO Board, Chair & NED

フォローする

オジャーズのソーシャルメディアに参加して、今日の最大の課題に私たちがどのように取り組んでいるかをご覧ください。

コンサルタントを探す [[ Scroll to top ]]